NTM V7 info (plus more)
iRacing.com 共同設立者で CEO 兼 CTO である Dave Kaemmer から、(再び)タイヤモデルについて投稿がありました。
本記事は 2018年 3月初旬、3月ビルド登場直前にメンバーフォーラム(パブリックサイトにも)に投稿された内容を日本語訳してお届けするもので、NTM (New Tire Model) V6 までのおさらいと、新しい V7 について記されています。
オリジナルの記事はこちら。
- http://members.iracing.com/jforum/posts/list/3596425.page
- Physics Modeling: NTM V7 Info (plus more)
https://www.iracing.com/physics-modeling-ntm-v7-info-plus/
本記事後半では、メンバーフォーラムに質問への回答として投稿された Q&A についても続けて日本語訳を掲載しました。
なお、NTM V7 は 6月ビルドで、数台のマシンに搭載されて登場見込みとなっています。
本記事の最後には、合わせて確認するとより理解を深められそうなリンクもいくつか掲載しています。
ゆっくり時間を掛けてしまいましたが、ほぼ全文の和訳となります。読み進めやすいように、いくつかオリジナルにはない見出しを追加しましたが、かなり文量長い記事となっています(前回比約260%!?)。前回以上にコーヒーを用意して、以下よりどうぞ。
NTM
以前タイヤモデルについて書いてから長く空いてしまいましたし、もっと聞きたがっている人がいることは分かっています。New Tire Model(NTM)が最初に発表されて以降、何回かの反復を経て、最初の難解なブログを書きました。今はモデルの 7回目のアップデートについてまとめる作業をしています。それについて、最初か2回目以降書いていないので、バージョン 6 についても触れようと思います。現在は、サービス内のマシンはすべてバージョン 6 のタイヤモデルで動いており、それ以前のバージョンはすべて気に留める価値はありません(V6 でも使われる V5 のトレッドゴムモデルは除く)。
2010年の記事を知らない方は、まずはこちらを。タイヤモデリングと私のアプローチについて、いくつか基本的な情報が見つかります。
- The Sticking Points in Modeling Tires
https://www.iracing.com/the-sticking-points-in-modeling-tires/
※和訳記事: タイヤモデリング(2010-05)
https://www.shupop.com/iracing/2010/05/31/tire-modeling/
上記記事ではあとで登場するいくつかの専門用語やタイヤモデルに関係する基本情報を網羅しているので、もしまだ読んでいないのなら、この記事を読み進める前に読んでおく価値はあるでしょう。
物理学的モデルと経験的モデル
上記記事を読んだことのある方は既に御存知の通り、私が開発してきたタイヤモデルは理論的/物理学的モデルです。実験に基づいた実証的/経験的モデルではありません。経験的モデルはタイヤ内で起こっていることをモデル化するのではなく、ラボでの実験と似た状況と仮定して、新しい状況下で測定されたデータを再現して何が起こるかを予測します。これには数学モデルが関わっており、測定データとフィットする特定のパラメータ(マジックナンバー)があります。タイヤで最も知られている経験的モデルは Hans Pacejka の Magic Formula です。それはラボで計測されたタイヤデータ曲線によく適合しますし、特に数十年もの価値ある改善はとても素晴らしいです。
しかし、ラボで測定されたタイヤカーブにフィットさせる作業は、多くの異なるタイヤ、特にレーシングタイヤのように限界までプッシュされるタイヤをモデル化してそれぞれテストするのはあまり有用とは言えません。そしてこれらのパラメータの多くは実際の物理的意味は持たないので、実際のタイヤテストなしに、空気圧や温度変化、速度変化によってどのように変化するか予測する方法がありません。さらに、経験的モデルはタイヤカーブの一部(通常、スリップカーブの初期パートや限界よりも手前の部分)にはフィットするかもしれませんが、限界を超えて起きることは再現できない傾向にあります。また、実際のタイヤが示す過渡的な挙動についても、あまり良い仕事をしません。乗用車やトラック用のタイヤにフォーカスしたタイヤ産業の大部分についてはこれで問題ありません。高速道路ではタイヤの温度変化は激しくないし、雨を除けばスリップカーブの限界を超えて運転されることもないので、経験的モデルでうまく働きます。
もう一方の物理学的モデルは、基本原則からタイヤの物理学をシミュレートしようとします。つまり、タイヤの材質や構造、そしてその材質や構造に基づいた物理学に基いています。それが機能するために、タイヤがどのように動作するのか、現実に生じる全ての効果についてモデル化する必要があります。あるいは、より多くを可能にするために、少なくとも顕著な違いをもたらすすべての効果をモデル化しなければなりません。なぜ・どのようにしてタイヤがフォースを生じるのか、正確に理解することが重要になります。これは難しい問題ですが、最終的にはタイヤがどのように構築されているかが分かりさえすればタイヤのパフォーマンスを予測できるようになるのです。我々はタイヤを切断してどのように構築されているか学んだり、ラボで様々な破片がどのように振る舞うか解析することもできます。タイヤコードがどのように造られているのか、コードがどのように重ねられているのか、カーカスとトレッドゴムがどのようなもので造られているのか、そういった構造を知ることで、様々な状況下のレーストラックでそのタイヤがどのように振る舞うのか、予測することができるのです。
iRacing NTM = 物理学的モデル
では、NTM登場以降いくつものバージョンのモデルでは何をしてきたのか。簡単には 2つ挙げられます。カーカス構造を学習してモデリングを向上すること、そしてゴムを学習してモデリングを向上することです。それらはお互いにある程度独立しているので、私は両者の間を行き来する傾向があります。一方を改善できたらもう一方も改善したい。この精神でこの研究書の残りはカーカスとゴムの情報を行ったり来たりするのでしょう。私が明らかにしたいことの限界に達しない限り、もう誰も読まなくなるまでその詳細が続くのです!
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