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Q&A

たくさん質問を頂いたのでできるだけ答えてみようと思います。

1) 10年以上NTMに取り組んできたわけですが、代わりに実証的アプローチをしたいと思いませんか

いいえ、とんでもない。実際、Papyrus時代とiRacingの初期、合わせて20年間は実証的アプローチを追求していました。そこで重要なことを教わりました。経験的/実証的アプローチでは、モデル化する車両・タイヤが増えれば増えるほど、どんどん開発に時間が掛かってしまうのです。多くの変数とその調整を変更する都度たくさんのテストとフィードバックが必要なので、どこかで実証的アプローチが現実のタイヤから逸脱してしまう問題が発生します。より多くのパラメータをモデルに加えて、それが全てのタイヤ・車両にも必要になるのでさらにテストとフィードバックを重ねて、、、うっぷ。

現在我々がある状況に来るまでは多くの仕事が必要でしたが、物理学的モデルなら開発速度は遅いどころか早くなります。私達が知っているほど簡単になるからです。モデルが驚くべき挙動を生み出したことも何度かありましたが、実際のデータをより詳しく見るとその動きが正しかったことが分かりました。自分たちが知っている数字や概念がまったく知らないことを明らかにすることもあります。これこそ正しいアプローチ、私はV7モデルに興奮しています。それは多くが正しい。移行には時間が掛かりますが、それは正しい方向への大きな一歩です。

タイヤはさておき、太陽を回るケプラーの楕円軌道に対する惑星の動きを表す方法として、プトレマイオスの周転円を考えてみましょう。プトレマイオスのモデルは間違いなく経験的モデルです。個々の惑星の周転円に必要な円がいくつでどれくらい大きいのか、把握する方法はありません。理論の根拠がないモデルにフィットするカーブでしかありません。ケプラーはもっと優れたより単純なカーブに達しましたが、それでも彼もその理由は知りませんでした。残念ながら彼は天の神の秩序を解明できなかったことで25年以上の仕事が大失敗と考えて死んだ。しかしアイザック・ニュートンはケプラーの作品を知っていたからこそ重力理論につながりました。ケプラーとニュートンの理論がプトレマイオスよりもずっと進んでいます。どんなときも良い予測理論は膨大なデータを打ち負かすのです。

マジック・フォーミュラはプトレマイオスの周転円に似ています。データをある程度フィットさせ、最も一般的な状況で何が必要かかなりの精度で予測する。我々の物理学的モデルはニュートンの理論に似ていて、何が起きているか解明することができ、そして知らなかったことを予測することさえできます。実際それはニュートンの重力モデルよりも洗練された興味深くすばらしいものですが、我々はニュートンの時代よりももっと多くの偉人たちを手本にすることができました。ニュートンは全ての重要な仕事をオイラーが産まれるよりも前にやってしまいましたし、それに我々はニュートンの重力理論をシムで使用していて、本当にうまく動いています。ニュートンと計算法なくして今はありません。

2) この仕事をどうやって検証しますか?

重要な問題ですね、不運にも、それはとても複雑で我々皆が期待しているより満足できない答えになります。理想的な答えは「我々の考案したモデルの全要素について、理論は検証されていて、多くの論文も発表していて、世界中のラボで裏付けがなされています」でしょうか。いいえ、そんなことはありません。それは毎日繰り返されているのです。

幸運なことに、我々のモデルの構築に使える結果を導く論文は世界中の多くの科学者が発表しています。最も覚えておくべき重要なことは、論文とデータを見てそのデータを使って理論を少し考えても、同じデータでは理論の検証はできないことです。新しいデータを見つけなくてはなりません。我々は自動車メーカーにレースチーム、まれにタイヤメーカーからも、データを入手して、さらに多くの本や論文を探します。ときにはデータを用いて理論化し、ときにはそれを検証に使います。でも両方ではありません。データはしばしば実験に依存します。良い論文では実験の条件と使用された素材について詳細を説明しているので、その詳細を使ってプログラムコードやスプレッドシートでその実験を仮想的に再現し、自分のモデルがもたらす出力を観察することができます。ゴムの動的実験についての論文もたくさん読みました。それらのほとんどはゴムのレシピを提供しますが、そうでなければデータはより限定的な値となります。

複雑なシミュレーションを作成するとき、いつも知らない数字がたくさん出てきます。しかし我々がもっと学べば、それらの数字は合理的な範囲の値に制限されていきます。それはジグソーパズルをまとめるようなものです。最初は不可能に見えるものが、いくつかのビットが一緒にフィットし始めると概要が明らかになってより簡単になります。このプロセスは常に新しいデータに対する二重三重四重の検査の一つです。

-実証的/経験的モデルではマジックナンバーが必要-

一般的な原則として私は、(不可解な)マジックナンバーは除外するようにしています。特定条件下で測定されたものでも、広く受け入れられている物理学的理論から予測されたものでも、現実に我々が使うすべての数値には原理原則があります。軸が回転する右フロントホイールの慣性モーメントのように、いくつかの数値は極めて簡単に予測できます。でもシャーロットの20周後に右フロントのカーカスがどれくらい熱くなるか、みたいな数値は簡単ではありません。ただ右フロントのカーカス温度は20周後の空気圧に関係しています。多くの数値はお互いに関連しているので、もし我々がそれらのうち一つの数値を知っていれば、他の数値について、少なくとも適切な範囲を予測することはできるのです。以前の第一原理から何があったかを実際に計算する方法がなかった間は、タイヤの転がり抵抗は経験的モデルによって計算されており、そして全ての車両とタイヤを合理的な温度と空気圧で作るには、的外れにならないようにするために魔法の係数 Rolling Heat Multiplier – 転がり加熱係数 – が必要でした。

-理論的/物理学的モデルではマジックナンバーを排除-

さて今、計測可能なカーカス素材パラメータとカーカスモデルから転がり抵抗を計算できるようになりました。あるべき水準を外してしまう可能性に用心するために、現時点ではまだこの係数は保持しておきますが、それでもほぼ全てのタイヤで 1.0 、つまり転がり抵抗モデルに変更の必要がないようにしておくのがベターです。もしそうでなければ、それはそれで良い情報にはなります。もしモデル化されていない何かがあれば係数は 1.2 くらいになるかもしれませんし、あるいはタイヤごとにかなり異なる何かがあるようなら、解明するためにさらなる研究を行うことになるでしょう。既にタイヤモデルに残っているマジックナンバーはあまり多くありません。マジックナンバーなしに正しい答えを得られる良いモデルとするため、検証作業は継続されるのです。

-フィーリングの検証には注意が必要-

いくつかの検証は、それを知っているべき現実のレーサーからの「フィーリング」のフィードバックに由来しています。我々はもちろんそのようなテストを数多く行っています。しかし「フィーリング」は幻想的な錯覚にもなり得るので、注意が必要です。フォースフィードバックホイールには常にラグがあり、シートからお尻に伝わるフォースがないことで、現実世界よりスライドコントロールは難しくなります。
シムではいつも、オーバードライブだったりアグレッシブ過ぎることに気づきます(皆さんもそうではありませんか)。過去には、週末のレースをするたびに、あとでシムでもっと速く走れるだろうと気づくことがありました。なぜでしょうか。現実のマシンは自分のドライビングをスムーズにさせ、あまりオーバードライブさせないからです。シムでは同じアプローチを使うのが良いです。シムでの「よい感じ」はときどきオーバードライブを許容しすぎていることがあります。より現実的な許容レベルに下げれば、コントロールも簡単です。マシンコントロールの反応速度を上げ、悪い状況を避けられるように、スムーズなドライビングで注意し続けなくてはならないのです。

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